「モーツァルト時代、ピアノの白鍵と黒鍵が反対だった?」
現在のピアノの鍵盤は、1オクターブの7つの幹音が白鍵、その間の5つの半音が黒鍵です。
しかし、 モーツァルトが活躍していた18世紀末のピアノの白鍵と黒鍵は反対でした。つまり、今の白鍵の部分が黒色、黒鍵の部分が白色でした。
実は、鍵盤の色には、その『材質』が大きく関わっていると言われています。
ピアノの前身であるチェンバロ(ピアノのように鍵盤を弾くことで内部にある機構が動いて弦を弾く構造となっている鍵盤楽器の一種。)やクラヴィコード(弦をタンジェントと呼ばれる金具で突き上げることで発音する鍵盤楽器。) が作り出されたバロック時代(17世紀初頭から18世紀半ば)には、鍵盤の白い部分には象牙、黒い部分には黒檀(こくたん)が使われるのが主流でした。
つまり、現在と同様に1オクターブの7つの幹音が白鍵、その間の5つの半音が黒鍵だったのです。
象牙は高級感があり、なおかつ汗を吸収し指がすべらない、またどのような温度や湿度にも適応して肌触りがいいという特徴があります。また黒檀は、緻密で堅く耐久性に優れています。
このように、鍵盤に適した材質のものがたまたま白と黒だったため、それが定着しそのままピアノの鍵盤にも使われるようになったようです。
しかし、モーツァルトが活躍していた18世紀末になると、現在の鍵盤の配色と真反対で、白鍵の部分が黒色、黒鍵の部分が白色となりました。鍵盤が黒を基調にしたのは、「高価な象牙を面積の狭い部分に使うほうがコストを抑えることができる」「面積の広い部分が黒のほうが女性の手の白さを強調できる」「当時は黒鍵の素材である黒壇のほうが軽かったため、鍵盤を軽くするため」というのが代表的な理由と考えられています。
今度は19世紀に入るとピアノの鍵盤は現在の配色、1オクターブの7つの幹音が白鍵、その間の5つの半音が黒鍵に戻りました。その理由としては、「18世紀後半の産業革命やフランス革命を経て、富を持ち始めた一般の市民たちが、財力を誇示するため」、「視覚的に白の方が浮き上がって見え、張り出している半音の鍵盤を黒くしたほうが見た目に安定感があるため」、「白を主体とした明るい鍵盤のほうが好まれるから」などさまざまです。この19世紀後半の鍵盤の配色が現在にも引き継がれ、鍵盤の素材が変わっても、現在の白と黒の配色になっています。
ちなみに、現在のピアノの白鍵の基底(内部)には天然木材が使われており、表面にはアクリル樹脂が使われています。黒鍵の基底には天然木材や紫檀(シタン)が使われており、表面には樹脂が使われています。
現在でも、最高級ピアノの黒鍵には最高級素材として黒檀が使われています。しかし、1975年に発効された『ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)』により、現在では白鍵に象牙が使われることはありません。
先日、予備校講師である某氏の教養バラエティー番組で取り上げていた話を少し掘り下げてみました。チャンスがあれば、ピアノに関する豆知識として披露してみては。